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葦の葉通信4号 2015/6/3  久本福子 YOSHIKO HISAMOTO

国防

1構造改革とIT 

 3Dプリンターは日本人が発明したものですが、日本では3Dプリンターはその存在そのものすら、つい最近までは一般人はほとんど誰も知りませんでした。ところが、1990年代の日本では、3Dプリンターの研究開発は世界の最先端を独走していたという。フィンランドだったか、北欧の、3Dプリンターを使った世界的な医療関連機器メーカーの社長が、日経ビジネスのインタビュー記事で語っていたのを読み、驚いています。また自動車の自動運転技術も、日本では20年ほど前にはすでに開発に成功していたという。この自動運転による走行実験を映した映像を見たトヨタの豊田彰男社長が、自動運転技術はすでに確立しているじゃないかと喜びの声を挙げたそうですが、20年ほど前のものであることを知らされ、驚いたという記事が、1、2ケ月前の日経web版に出ていました。この技術は富士通が開発したものだそうですが、現在の富士通は、なぜか自動運転分野には関与しないという。

 3Dプリンターも車の自動運転も非常に高度なIT技術の結晶ですが、これらの技術は、近年になって世界的にも注目を浴び、欧米先進各国では研究開発競争が激化しています。3Dプリンターは、安倍総理の再登場でやっと日の目を見ることができました。ということはつまり、1990年代の日本のIT技術は、文字通り世界の最先端を独走していたということです。にもかかわらず今現在の日本では、3Dプリンターも自動運転も、先行する欧米先進国の動きからはかなり遅れてのスタートとなりました。一般のマスコミは、日本企業の出遅れについては賑々しく報道しますが、20年ほど前まではこれらの最新技術は、日本が世界の最先端を走っていたことについては全く報道していません。ましてや、かつては日本が世界の最先端を独走していたこれらの分野の研究開発が、なぜ途絶えたのか、その背後事情について検証した報告は皆無です。

 もともと日本企業には地力、底力がありますので、20年遅れのスタートでも一気にその差を縮めつつありますが、これらの先端技術の開発が途絶えていなければ、失われた20年は起こりえなかったはずです。さらにこの20年余の空白は企業活動を停滞させただけではなく、日本社会に長期に渡る渾沌と停滞をもたらしましたが、その後遺症からの脱却は、今もなお完全には果たせずにいます。

ではなぜ、日本の最先端技術が急に途絶えたのか。何か問題があって頓挫したのではないことは言うまでもありません。突如として、途絶えたわけです。この頃、何があったのでしょうか。この頃、突如として浮上してきたのが省庁再編問題です。省庁再編こそが、日本の未来を救うとばかりの再編礼賛報道が続きました。この再編では役所の名称が変わっただけではなく、組織も人事も大幅に変わりました。その結果、それまで順調に続いてきた最先端技術への国のバックアップ体制が一気に消滅したと思われます。さらにこの省庁再編とほぼ時を同じくして、小泉耕造改革が始まりました。この構造改革では、従来型の産業構造の大転換も大テーマとして掲げられ、公的機関のデジタル化も一気に進められました。同時に予算の徹底削減も大命題として追求されました。

その結果、1990年代後半から2000年代前半にかけて実施されたこれらの大改革は、IT関連企業には天から振って沸いたような特需をもたらしたはずです。電子政府、1億3000万人もの日本国民の住民票から戸籍謄本にいたるまでのデジタル化。さらには平成の大合併によるシステム改変の特需も加わわりました。投じられた税金は莫大な額に上ったはずが、これらのIT特需はあくまでも一時的なものであり、技術的にもイノベーションを起こす要因は皆無の事業です。今から振り返ると、これらの大改革は日本社会に真に革新をもたらす改革であったのかといえば、否というしかありません。ただムダに税金を浪費しただけだ、と言っても過言ではありません。それどころか、文字どおり世界の最先端を走っていた日本のIT技術の、真の革新を妨害したとさえ見なしうるような結果をもたらしました。

これに関連して、昨年、日経のIT専門のWeb誌で驚くべきニュースを目にしました。世界中の中高生を対象にした、プログラミング能力を競う「国際情報オリンピック」が1989年から始まったそうですが、日本は90年代に3回参加しただけで、2006年まで中断していたという。この大会では各国とも出場できる選手の数は4人と決められていますが、日本はなぜこの大会に中高生を派遣できなかったのかといえば、何とその理由とは、予算がなかったからだという。ちょうど省庁再編が実施され時期であり、小泉構造改革の継続中の時期にも当ります。いくら緊縮策が進行中だとはいえ、4人の中高生を大会に参加させる費用ぐらいはどうにでもなったはずですが、小泉構造改革中はその余裕もなかったらしい。小泉元総理がそこまでの指示をするはずはないでしょうから、文科省管轄の事業なので、文科省初の女性大臣が大会参加費用を完全カットしたのかもしれません。

 小泉総理が退陣した後の、2006年のメキシコ大会からは、文科省系の独立法人科学技術振興機構の支援を受けて、10年ぶりに参加できるようになったそうですが、省庁再編と小泉構造改革時期の間、日本の中高生はこの大会に参加できなかったわけです。26回目に当る昨年の台湾大会では、日本は総合順位は11位でしたが、金メダル1個、銀メダル2個、銅メダル1個と全員がメダルを獲得するという好成績を修めました。日本では中高とも正規の授業ではプログラミングはもとより、IT技術の授業は実施されていませんので、参加した4人は部活などの授業外で個人的にプログラミングをマスターしたという。そういう環境下で、4人全員がメダルを獲得したというのは、驚き以外の何物でもありません。出場した4人の若者は、帰国後文科省を表敬訪問していますし、台湾大会終了後、2018年にはこの情報オリンピックが日本で開催されることも決まったそうですので、おそらく近年では文科省からも直接支援を受けるようになったのだろうと思われます。この4人の選手のうち3人は高校生(開成高、灘高、大阪府立茨木高各一名)ですが、開成中学3年の生徒も一名含まれています。

 ちなみに、この大会では中国が毎年1位、ついでアメリカが2位という順位が定着しているという。米中2大国の中高生が、情報技術分野でも覇権を競っているわけですが、日本は10年もの間、大会に選手すら派遣しなかったわけです。つまり日本は国家としては、IT分野の人材育成を事実上放棄したも同然だったことになります。日本では義務教育でIT技術を全く教えないことからも、教育におけるIT軽視は明白ですが、選抜された有能な若者の育成支援策までをも放棄してきたことは、やはり尋常ではありません。日本のIT教育の遅れは、文科省自らも認めていますが、なぜ日本政府は、これほどまでにIT教育を軽視してきたのか。

 

TRONと日本のIT教育

 1990年代までは、日本のIT技術は世界の最先端を独走していたことは、坂村健東大教授が1984年に開発し、無料で公開したTRONというコンピュータのOSが象徴しています。このOSはマイクロソフト社のwindowsより早く開発されたものですが、windowsよりもはるかに高性能だという。1986年、日本政府はこの国産のOSを搭載したパソコンを教育用として普及させる方針を発表したそうですが、米政府から、米国産パソコンの輸出を妨害するものだとの圧力がかかり、やむなく断念したという。その後、windowsパソコンが日本をはじめ世界中を席巻したことは周知の通りですが、当初、坂村教授らはマイクロソフト社が直々に圧力をかけてきたと考えていたという。しかし後に、TRON排除に動いたのは、実は日本人であったことが判明したという。

 詳細については、昨年2014年にTRON開発30周年を迎えたTRON PUROJECTが、30周年を記念して30年の歩みを多角的に紹介したサイト、「TRONフォーラム (http://tron.org./ja/) 内の TRON PUROJECT 30th トロンプロジェクト30周年として公開されていますので、ご覧いただきたいと思いますが、坂村教授は「TRONプロジェクトの30年」を語りながら、米政府による妨害の内幕も明らかにされています。TRONをめぐる米国からの圧力に関しては、日本では貿易摩擦として大々的に報道されたそうですが、当時はわたしは全く興味のなかった分野のニュースだったからなのか、TRONをめぐって日米間で貿易摩擦騒動があったことは全く記憶にはありません。記憶にあるのは、アメリカ人が日本車を叩きつぶしている映像です。貿易摩擦は車が主流だと思っていましたが、半導体、コンピュータ部門でも火花を散らしていたとは、最近知ったばかりですし、そもそも、わたしがTRONが何であるのかを知ったのもつい最近のことです。

TRONは、世界で唯一無二といっても過言ではないほどの、リアルタイム性に優れた超高性能な組込み式のコンピュータOSであり、事実今や、携帯電話、自動車、デジタルカメラ、電子楽器、プリンタ、宇宙船(人工衛星)、農漁業、観光業などあらゆる産業において、ユビキタスと呼ばれる「どこでもコンピュータ」環境を実現させており、TRONの世界シェアは60%にもなるという。携帯電話やタブレットの起動がパソコンとは比較にならないほ速いのはなぜなのか不思議に思っていましたが、TRONNの威力によるものだったとは驚きです。この事実を知った今、なぜこれほどの発明が、現在のNHK(過去には「プロジェクトX」などで取りあげたとのこと。)を含む一般マスコミではほとんど報道されないのか、その隠蔽ぶりにあらためて無気味さを感じています。また坂村氏は1982年、大型コンピュータが主流でデスクトップパソコンが登場し始めた頃に、すでにノートパソコンを自作されておられます。

当時のコンピュータ業界の動きを見ると、1981年に世界のコンピュータ界の王者であったIBMが、小型の個人向けコンピュータであるパソコン第一号を発売、1984年にはAppleMacintoshを発売、1986年にはWndowsの原型が登場した時期であったという。以上は、技術ジャーナリスト西村吉雄氏の「電子立国はなぜ凋落したか」(日経テクノロジー)を参照したものですが、坂村氏の先見性がいかに突出したものかが分かります。坂村氏のこの先見性は、コンピュータの小型化を必然たらしめる、世界の「どこでもコンピュータ」化の不可避性を予見していた、坂村氏の技術思想に由来するものだと思われます。これほどの人物がなぜ日本では、一般社会にはほとんど知られていないのか、不思議というよりも不気味です。

しかし海外では、坂村氏の業績は正当に評価されています。5月15日に、坂村氏がジュネーブに本部を置く国際電気通信連合(1865年創設、現在は日本を含む193ヵ国が加盟)の150周年記念賞を受賞されたとの発表がありました。受賞者は坂村氏やビル・ゲイツ氏をはじめ6人だという。150年もの歴史を背負っての世界を代表する6人の受賞。その価値の並々ならぬことは素人にも分かりますが、ネットで検索したところ、総務省が報道資料として5月15日付けで発表したもの以外には、毎日新聞が16日に簡単に報道しただけで、他には全くどこも報道していません。NHKのサイト内でも検索しましたが、1件も出てきませんでした。つまりNHKも反日姿勢には全く変化はなく、坂村氏にとってはもとより、日本にとっても名誉あるこの受賞ニュースを全く報道していないということです。ちなみに授賞式は5月17日にジュネーブで開催されたそうですが、授賞式のニュースも報道されていません。TRONフォーラムには、坂村氏の受賞の弁が掲載されています。

 実は、日本のマスコミの反日姿勢とTRONIT(ICT)技術関連の報道隠蔽姿勢とは密接に関連しています。中高生による国際情報オリンピックも一部の専門誌以外では報道されていませんし、日本の経産省が遅まきながら2、3年前から始めた若者を対象にしたプログラミング大会も報道していません。それどころか、情報セキュリティの重要性を喚起せずにはいない、米中間のIT事業を巡る対立もほとんど報道していません。中国が米国の情報を盗んでいることは報道しても、それ以上のIT分野における米中対立についてはほとんど報道されていません。中国が国家ぐるみで米国の情報を盗み出していることは米政府の度々の非難が報道され、今や誰もがその事実を知っていますが、実は米国のIT企業が、中国の情報を盗み出すためのプログラムを仕組んでいたことが発覚したことがあります。こういう事例を捉えて、中国は我が方こそが被害者だと米政府に反論していますが、中国はただ反論するだけではありません。アメリカのIT企業を次々と追放しています。政府機関や金融機関のサーバーやシステムでは、安全保障上の観点から米のITベンダー(IT企業)は使わないことを明言し、実行に移しています。

 中国政府の米ITベンダーはずしは、中国政府が自国メーカー保護のために、日本の自動車メーカーに厳しい課徴金を課したこととは、その意味あいはかなり違っているはずです。もちろん中国のITベンダー保護の側面も当然あるとは思われますが、安全保障上の処置であることも紛れもない事実だろうと思われます。中国政府の政治指導者はどの政権であれ、日本政府とは比較にならないほどにIT(ICT)技術の特性を熟知しています。中国の指導者は言論統制の必要上、ITの知識をマスターせざるをえなかったともいえそうですが、おそらく中国政府は言論統制の必要性からだけではなく、ITは国防と密接不可分の技術であるとの認識を持っているはずです。アメリカ政府も中国政府のこの対応には、正面切っての批判はしていないはずです。ICTブロックには、純粋に貿易障壁と見なすことのできない側面のあることは否定できないからです。

 ひるがえって日本政府はどうかといえば、昨年11月に、サイバーセキュリティに対して国家の責任を初めて明確に規定した、サイバーセキュリティ基本法が成立し、内閣官房にサイバーセキュリティセンターが設置されました。遅きに失したとはいえ、サイバーセキュリティに関して国の責任を明確にしたことは大進歩ではありますが、何と職員の任期は5年ということです。公務員の非正規化が国防分野にまで及んでいるわけですが、5年後には、サイバーセキュリティ対策は不要になるとでも考えているのでしょうか。昨日、外部から不正侵入された日本年金機構のパソコンから、125万人分もの年金情報が盗まれたことが明らかになり、日本中に衝撃が走っていますが、サイバーセキュリティ対策の重要性は今後ますます高まることはあっても、その逆はありえません。

にもかかわらず、IT人材も含めて人材育成に責任をもつべき文科省は、つい最近、電子教科書の導入の是非について検討する専門家会議を発足させました。日本ではIT教育といえば、IT製品の導入に限定されており、IT技術そのものを学ぶ機会は皆無です。坂村氏によれば、欧米では義務教育段階からプログラミング教育導入の動きが進んでいるそうですが、日本ではプログラミングどころか、ITの仕組みすら教えていません。高校では、最近になってやっとIT教育を選択できる機会は作られたそうですが、教える人がいなくて、この動きも事実上頓挫しているという。それも当然です。日本では義務教育ではIT教育を全くやってこなかったわけですから、この分野の人材が不足するのは当然です。企業はこの分野の人材不足を海外人材で埋めているようです。

 日本政府はなぜこれほどまでにIT教育に背を向けてきたのか。1990年代までは、日本はIT分野でもトップを走っていました。政府の政策もその動きを助けるものでしたが、2000年前後を境に、その動きがピタリと止まり、それ以降はむしろIT後進国になる道を政府が自ら選択したとしか思えないような対応が続きました。ITに関しては、ただひたすら「わたし(日本)使う人)」に徹したような歴代政権のIT軽視政策は、単に政治家のIT無知だけでは説明がつかないほどの異様さです。

 この急変はIT分野での世界制覇を狙う、アメリカ政府からの圧力によるものだというのが一般的な認識だと思われますが、果たしてそうなのかどうか。1980年代後半には、半導体をめぐる厳しい日米貿易摩擦問題が発生したそうですが、TRONをめぐっても同様の日米貿易障壁騒動がありました。坂村氏は、TRONを貿易障壁リストに載せたことに対してアメリカの通商代表部(USTR)に抗議したそうですが、米側からはすぐに会いたいとの連絡がきたという。坂村氏がUSTRに出向いて直接TRONについて説明したところ、USTRは、分かった、調査すると答えたという。それから1年後、TRONには全く問題はないとの結論が出たそうです。しかし、日の丸パソコンによる貿易摩擦を煽り立てる日本のマスコミ報道もあり、日本企業も日本政府も、国産TRONを使ったパソコン開発からは遠ざかるようになったという。

 おそらく日本のマスコミは、USTRTRONは問題なしと発表したことはほとんど報道しなかったのではないかと思われますが、USTRの調査結果は当然といえば当然です。TRONは無料公開されており、当時は世界のコンピュータ業界の王者であった米のIBMも、TRONを使ったコンピュータの開発を進めていたからです。当時IBMの副社長(日本人)から坂村氏に対して、なぜ貿易障壁になるのかという驚きの電話があったそうですが、TRON潰しは、TRONを使わないマイクロソフトのwindowsにのみ利益をもたらすものでした。このTRON排除に動いた日本人とは、日本でアメリカのパソコンソフトの販売を予定していた孫正義氏であったと、坂村氏自身が語っておられます。

 しかしこのTRON騒動の後も、TRONパソコンこそは日の目も見ずに消えてしまいましたが、日本のIT技術は何の障害もなく世界のトップを走っており、政府もそれを後押しする政策を進めていました。それが急変したのは、構造改革が声高く叫ばれ出した2000年前後の頃からのことです。この時期にあったアメリカ政府からの圧力は、郵政民営化でした。

TRONの貿易摩擦騒動が始まった1980年代後半は、西村吉雄氏によれば、高品質で安い日本の半導体が米国市場を席巻し、日米貿易摩擦が重大な政治問題となり、日本の半導体の価格を高く設定する日米半導体協定が結ばれたそうですが、アジア(韓国)の台頭を受け、この協定は1996年に解消されたという。実はこの協定は日本にのみ適用され、韓国には適用されませんので、韓国サムスンはこの間、一気に米国の半導体市場をほぼ独占するに至ったという。加えて、プラザ合意による円高も韓国を大いに利する結果になったという。韓国サムスンの半導体技術は、日韓両国の政治家による圧力によって、日本から無料で移転させられたものであることまでは西村氏は書いておられませんが、日本の政治家による韓国奉仕策がなければ、安さだけでは、韓国勢が一気に世界市場を占有することなどありえなかったことは明白です。

以上のような経過を辿りながら、日本の電子産業は凋落してゆくのですが、日本政府はこうした状況にはさして危機感を抱かずに、当時日本を覆い尽していた産業構造の大転換を煽る論調にも乗せられたのか、軽るカルチャー重視路線へと舵を切り、結果としてITが軽視され、IT教育どころかITのエリート教育策すら放棄するに至ってしまいました。

 もしも小泉元総理も含めた歴代総理が、アメリカからの直接的な圧力はなかったものの、IT制覇を狙うアメリカ政府の意を汲んで、日本政府が自らアメリカの邪魔をしないようにしたのだとしたら、日本にとってはもとより、アメリカにとっても百害あって一利なしの配慮であると言わざるをえません。ICt技術は製造業のみならず、医療はもとより農業、漁業などの自然相手の業種でも必須の技術となっていますし、日常生活の隅々にまで「どこでもコンピュータ」環境が広がっている時代です。

日本ではICTに関しても、高専や大学などの専門教育部門では、トップレベルの研究や人材育成が途絶えることなく続けられていますが、ICTは一握りの専門家に任せておけばよいという類いの技術ではありません。

 アメリカにとっても、もっとも友好的な同盟国である日本が、ICT分野で中国に遅れをとるような事態にでもなれば、アメリカの安全保障にとっても由々しき事態になることは多言を要しないはずです。サイバー分野でも安全保障上、日米の協力は欠かせないはずです。そのためにもIT人材の育成は喫緊の課題です。日本のIT教育は、義務教育レベルにまで広がりつつある世界の大勢からするならば20年くらいは遅れていますが、この先も、IT教育無策のままで許されるはずはありません。

 

3プログラミング教育

 間もなくマイナンバー制度が発足しますが、国によるそのシステム作りは1、2年前から進行中のはずです。1、2年前から振込み詐欺や投資詐欺やそれに類する被害が急増していますが、被害額が年間で500億円を突破し始め、昨年の被害額は約570億円にまで達しています。2003年頃、住民票や戸籍謄本などのデジタル化が始まった頃も、詐欺被害が一気に10倍に拡大し、年間被害額が300億円を突破し、以降、その水準が継続してきました。今回のマイナンバー制度準備段階による被害はそれを上回っています。マイナンバー制度の運用が始まれば、被害額はさらに拡大するのではないかと思われますが、日本では公的機関でのデジタル化が進む一方、デジタル化に伴う危険を予防するセキュリティ対策を担う公的機関がどこにもありません。被害が発生すると警察が動きますが、警察だけでは対応は不可能であることは明らかです。

 情報技術を管轄する役所は、省庁再編後は一応総務省になっていますが、総務省は地方自治体を管轄する役目も担っています。地方自治と情報技術、全く何の繋がりもありません。現安倍内閣では沖縄北方担当大臣がIT分野も兼務しているらしいですが、IT専門の役所がないゆえに、IT管轄部署が非常に曖昧です。せめて科学技術庁が存続していれば、これほどの混乱は生じなかったはずですが、いかに情報技術が軽視された省庁再編てあったかを象徴していますし、科学技術庁廃止は日本の教育科学行政に重大な影響を与えています。意味のない組織改変を優先させ、IT教育無策を続けてきた結果、IT教育の必要性を認識する人材すらいないのでしょう。安倍政権が設置した有期のセキュリティ対策室は、総合的かつ本格的なサイバーセキュリティを担う国家機関ではなさそうですが、常設機関へと昇格されることを望みます。

ところで、インドでは幼稚園からプログラミングを教えているそうですが、日本でも佐賀県武雄市では小学校でプログラミングを教える教育実験が実施されました。武雄市は佐賀県知事選に出馬して落選した樋渡前市長が非常に大胆な市政改革を実施し、大きな注目を浴びていましたが、小学校でのIT教育の導入もその一つでした。樋渡市長がいなくなったので、この路線は頓挫するのかと心配していましたが、後を継いだ現市長が前市長の事業を継承し、この教育実験も実施されました。DeNAに委託して作成した、小学生でも使えるプログラミングソフトを使って授業を実施したところ、子供たちは全員、喜んでプログラミングに挑戦したという。IBMも支援したそうですが、難しいとか、嫌だと言った子供は一人もいなかったという。英語を知らない日本の小学生が一人の落伍者もなく、喜んでプログラミングに挑戦した。これは驚くべき実験結果ですが、名もない地方の方がはるかに進んでいます。

樋渡氏は衆議院に転じた古川前知事の後任として立候補し、安倍政権の支持も得ましたが、大胆な改革を嫌う農協の支持が得られず、あえあなく落選してしまいした。農業県佐賀県では農協の支持がなければ当選は難しかったのかもしれませんが、樋渡氏が佐賀県知事に当選していたならば、佐賀県はIT教育の先進県になったであろうと思われます。武雄市の事例は、組織の枠組みを変えずとも、知恵を働かせれば実のある改革ができるということを示していますが、武雄市と教育委員会は対立するどころか、協力して教育改革にも取り組んできたという。道州制や大阪都構想など組織の枠組みを変えることばかりを訴え、職員や教育委員会とも対立するばかりで、7年も大阪に君臨しながら、実のある改革は何一つできなかった橋下氏とはえらい違いです。

 武雄市の日本初のこの実験は大成功だったといえますが、武雄市によると、今後もこの事業を続けるかどうかは未定だという。というのも、この実験には何人もの教師を配置しなければならず、そう頻繁には行えないということらしい。中学校でなら先生方のサポートももっと少なくて済んだはずですが、少し先進的すぎる実験だったのかもしれません。文科省は学校の統廃合や新しいIT製品の導入にばかり関心を向けずに、地方のこの先進的な試みに対してももっと敏感に反応し、国としても必要な支援をすべきではないですか。民間では中高校生にプログラミングを教える塾が人気を博しているそうですが、塾だけでは対象が限られてしまいます。民間の力も借りながら、義務教育で基礎的なプログラミングを含むICT教育の基礎を教え、合わせて、専門に関係なく全教師にも同様の知識を習得してもらい、ICT教育の空白を一気に埋める必要があるはずです。そのためには無用な書類作りから教員を解放する必要があります。

日本の中学校(義務教育)では、科学分野では、車の仕組み、電気の仕組み、気象現象の仕

 

 

組み、人体や植物の仕組み、元素の構造などを習いますが、なぜかITICT)については、日常生活の隅々にまで使われる技術であるにもかかわらず、その仕組みについては、義務教育課程ではもとより、高校ですら教える対象にはなっていません。ITICT)の核心はプログラムですが、当然のことながら例外的な事例を除けば、義務教育でも高校でもプログラムは教えていません。

 坂村健氏も、次のように語っておられます。「欧米がプログラミングを義務教育に入れようとしているのは、職業プログラマの増員目的というのではない。どんな人生を送るにしろ、プログラミングの力が「読み書き算数」と同様に人々の助けになるーそういう未来が見えてきたからだ。「読み書き算数」の基礎教養で国民全体のレベルが高いことが、資源のない日本の大きな強みだった。しかしこの新しい素養にについて、日本は大きく遅れをとっている。TRONプロジェクトが目指すユビキタス環境が実現しても、それを最大限活かしてもらえるには、一般の人々のプログラミングの素養が鍵になる。この分野のテコ入れを、TRONプロジェクトとしても大いに働きかけていきたいといま、考えている。」(2014年「TRONプロジェクト30年の歩み」)

 最近、自民党の議員が、教員免許を国家資格にすべきだという提言書を提出したようですが、全く検討はずれもはなはだしい提言だといわざるをえません。近年のの日本では、国家そのものが、全く検討はずれの教育政策を進めてきたのです。しかも非正規教員が増加する一方の現在、何を考えているのかと言いたい。大学の規制緩和で、論文一本書いたこともないタレント教授が激増。お客(学生)を呼ぶためには、有名タレントを呼べ!ということです。こういう潮流を生み出した、政治家の責任は重大です。無知は国を滅ぼします。

 

4 新安保法案

国会では安全保障法案の審議が始まりましたが、日本が置かれている現実世界から遊離した論戦が展開されているような印象が拭えません。日本にとって最大の危機は何かといえば、アメリカが中国と手を結び、米中が共同して反日的行動をとることです。米中が反日共同戦線を組めば、日本は中国の属国的地位におとしめられることは火を見るよりも明らかですが、日本は米国にではなく、中国に従わざるをえなくなるという点が、この問題の最重要ポイントです。ここ数年、「米中+韓」は日本に対して共同で、従軍慰安婦問題や侵略戦争に関する激しい批判を展開してきましたが、こうした昨今の状況は、米中共同の威力の恐ろしさをまざまざと見せつけてくれました。米中が手を結べば、武器を使わずとも日本を沈没させることはいとも簡単です。しかし米中共同による日本批判は、日本を中国の餌食にする結果をもたらすだけであるばかりか、アメリカのアジアにおける地位の低下をももたらすことは、火を見るよりも明らかです。それはひいては、アメリカの世界的地位の低下につながることはいうまでもありません。

さすがのアメリカも、無原則的な米中共闘路線の危険性に気がついたのか、あるいは昨今の中国の露骨な領土拡張路線に危機感を抱き始めたのか、中国と距離を置き始めています。おそらく直接的には、安倍総理の米上下両院議会演説を機に、日米同盟の一層の強化とその重要性に改めて気づかされたことの効果も大きかったと思われます。日本の総理大臣では初めてだという安倍総理のこの演説は、日本のマスコミでは謝罪がなかったという情けない論評付きでしか紹介されていませんが、ネットで演説の全文を見ると、非常に配慮の行き届いた、実りある内容であることに驚かされました。沖縄の基地問題への言及がないとの批判はもっともだとは思うものの、総理の演説の最大の功徳は、アメリカ的価値観がいかなるものであったのかということを、我々日本人にも思い出させてくれた点だと思われます。

戦前、対米開戦に踏み切った日本は、アメリカの攻撃によって広島、長崎への原爆投下のみならず、日本列島のほぼ全土を焼き尽されました。しかし我々日本人はアメリカを憎むこともなく、むしろアメリカへの強い憧れを抱きつつ戦後復興に励んできました。徹底した日本軍国主義批判も含めた、GHQによる日本人洗脳が功を奏した結果でもあったのでしょうが、それだけではなかったはずです。日本にはない自由の風を伝えてくれるアメリカの全てに、当時の日本人は純粋に憧れたのだと思います。強制だけでは、かつては激しく戦った日米の間に、友好関係など生まれるはずはありません。

それから70年、今やアメリカ自身をも激しく毀損せずにはいないほどのクロ−バル化の波が、地球上を洗い続けています。こうした世界情勢の中で、日米があらためてアメリカ的価値観を共有するものとして同盟強化を宣言したことは、日本にとってはもとより、アメリカにとっても喜ばしい出来事であったはずです。ただ自由というアメリカ的価値観が、かつての古きよき時代の懐旧をそそる対象とはならずに、今なお輝きつづける現役の価値観でありつづけるためには、相当の困難を覚悟する必要があります。

例えば、中国。中国は自由という価値観とはもっとも遠い体制下にありますが、今や世界経済は中国なしには成り立ちません。この中国とどう向き合うべきかは、アメリカにとっても日本にとっても難しい問題です。特に日本にとっては、領土問題や歴史認識問題もあり、困難さは倍加します。70年前、中国が世界の中心に躍り出ようとは、世界中誰も想像もしなかったはず。またイスラム国のようなイスラム過激派の出現も、70年前には誰も想像もしていませんでした。イスラム過激派には、当然のことながら自由という価値観は全く無縁。彼らにとっては、人の命さえただの消耗品でしかありません。しかも残忍非道なイスラム過激派の最大の特徴は、彼らには国境は何の役にも立たないということです。70年前、こういう勢力の出現は、世界中誰も夢想だにしなかったはずです。

戦後70年を迎える今年、日本の侵略戦争への謝罪ばかりが話題になりますが、70年前とは様変わりした今現在の世界を直視するならば、世界が共有すべき課題は、日本を糺弾することなのかどうかは大いに疑問です。日本は戦後、戦前の過ちを二度と繰り返しませんと国内外に宣言し、ただひたすら平和国家としての道を歩んできました。またドイツもナチスの犯罪を謝罪し、平和国家としての道を歩んできました。しかし日本やドイツの戦後の歩みとは全く無関係のところで、現在の世界の危機は発生しています。

大量に生まれる難民も世界の大きな不安要因の一つになっていますが、大量難民も70年前には存在していませんでした。戦争被災地では住む家をなくした人々は大量に発生しましたが、難民となって国外をさまようということはありませんでした。現在の大量の難民は、イスラム過激派などが絡む内戦とその後の混乱が原因ですが、誰もこの混乱を治めることができずにいます。当然のことながら、難民は発生し続けます。70年前、これほどの無政府状態が大規模に発生することを、いったい誰が想像しえたでしょうか。戦勝5大国が常任理事国として運営されている国連は、この難問に関しても全く無力です。

にもかかわらず、中国、韓国はただひたすら日本糺弾に血道をあげてきました。そこに米国政府までもが加わっての日本糺弾。さらには国連までもが加わって日本糺弾を続けてきましたが、世界の危機は緩和されるどころか、増すばかり。日本はこうした危機緩和のために、自国の社会保障費を削ってでも巨額の資金を提供し続けてきました。中韓両国にはその種の国際貢献は皆無に近い。いったい何のための日本糺弾なのか。日本を中国と韓国の餌食に供するためのものであることは明々白々です。日本が中国の全面的な餌食になるならば、中国の強国化がさらに加速化されることは火を見るよりも明らかです。

力をつけた中国は誰はばかることなく、国益重視路線を突っ走るであろうことも、日々の行動によって実証済みです。中国が提唱したアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、アジアの新興国のインフラ整備を進め、民生向上に役立てようという理念の基に創設されたはずですが、その創設に参加したメンバー国、いわば仲間であるはずの一部の国々に対して、中国は、創設後も領土侵犯を平然と続けています。普通ならばそれまで続けてきた領土侵犯行為は多少なりとも抑制されるはずですが、むしろ侵犯行為は加速しています。自国領土だと主張する中国には領土侵犯との認識は皆無らしいので、国際情勢がどう変わろうとも侵犯行為を止めるはずはないということなのでしょうが、通常ではありえない行動です。AIIBでは中国の拒否権が認められるらしいので、メンバー国も中国に表立って楯突くことはできないのかもしれません。もしも拒否権が認められるならば、AIIBは中国の思惑どおり、中国のアジア支配の拠点になるはずですが、これほど露骨に堂々と覇権主義を発揮している中国は、自らの野望を隠そうともしていないということです。

中国がこれほどまで大国化したということは、アメリカの地位が相対的に低下したことを意味しており、今の中国は、かつて米ソが均衡状態を保ってきた、冷泉時代のソ連以上の威力を持っています。中国は「資本主義」を武器に国力を増大させ、今や資本主義の総本山であるアメリカの経済までをも左右するほどの力を持つに至っています。中国の国力伸長には日本からの無尽蔵に近い技術支援と莫大な資金援助が多大な貢献をしたことも強調しておくべきですが、70年前には想像すらできなかった光景です。

しかし今の日本は、このアメリカとの同盟なしには国の安全を保つことは不可能であることも事実ですが、かつては一国で世界の秩序を維持することが可能であったアメリカも、今ではそれは不可能です。となれば、全面的にアメリカに依存してきた日本の安全保障を、日本も自ら実質的にアメリカと共同で担わなければならない状況にあるということは、説明を要しない事実です。

また経済のグローバル化で、日本企業の海外進出も常態化していますが、国境を超えて多発する紛争に、日本人が巻き込まれる危険性も増大しています。事実、海外在住の日本人が紛争に巻き込まれた事例はいくつも発生しているそうですが、たとえ邦人救助のためとはいえ、自衛隊を海外に派遣することができないので、外国の軍用機などに救助され、危うく難を逃れた事例がいくつもあるという。詳細はJBPress2015/3/18 元空将織田邦男氏の「有事の際、海外の邦人救出はしなくても本当にいいのか 」をご覧いただきたいと思いますが、その一部を紹介すると、2011年のリビア内乱発生時には、英国は空軍機を派遣して在リビア英国人を救出、中国は、海軍のフリゲート艦を派遣して中国人を救出、韓国は海軍駆逐艦と大韓航空機とチャーター機を派遣して韓国人を救出したそうですが、日本は自衛隊の派遣はできない上に、危険地域なので民間機の派遣もできず、23人の邦人はスペインの軍用機や米国のチャーター機に救出されて退避したという。2013年のアルジェリアの過激派による急襲時も、英米独は空軍を派遣したそうですが、日本はその手段を持たなかったことはいうまでもありません。1997年のカンボジア内戦時には、440人もの邦人がタイの軍用機に救出されて、あやうく難を逃れた事例もあったという。

日本では、邦人が仮に海外で紛争に巻き込まれても、命の危険のある紛争地域には自衛隊を派遣することはできません。憲法がそれを禁じていると解釈されてきたからです。目下審議中の新安保法案でも、邦人を輸送中の米軍が攻撃された場合、自衛隊が武器を使って米軍を警護することが憲法上許されるのかどうかというのも論点の一つに含まれていますが、これも奇妙な話です。今回の新法でも、憲法の規定により自衛隊が直接邦人救出をすることはできないので、あくまでも救出は米軍にお願いして、自衛隊はその米軍を警護するという形を取らざるをえないということですが、それすら野党からは憲法違反だとの激しい批判が浴びせられています。本来ならば、自衛隊が直接邦人救出を行なうべきであることは明白です。憲法がそれを許さないというのであれば、憲法を変えるべきではないかと考えるのが筋ですが、複雑怪奇なアクロバットを演じているような論争が延々と続いています。

邦人救出を言えば、邦人救出を口実に過去の戦争は始まったとの批判が護憲派から出てきますが、過去の日本政府にしろ、現在や将来の日本政府にしろ、海外で紛争に巻き込まれた邦人は救出せずに、放置せよとでもいいのでしょうか。仮に日本が自国民救出に動かなくとも、日本以外の国々は自国民救出のために、即座に軍を派遣するのは、昔も今も同じです。あるいは今後ともアメリカをはじめ、外国軍隊の救出を頼みにせよとでも言うのでしょうか。紛争地での民間人の救出には、自衛隊であろうが外国の軍隊であろうが、危険が伴うことは当然です。しかし目下、国会では自衛隊を危険にさらすな!と、野党が批判の声を高めています。自衛隊は安全な所で活動させておいて、危険な任務は外国軍隊に任せろ!というのが、護憲派の大主張となっています。

しかし最大の頼みの綱であるアメリカは、こうした日本国内の護憲派的大潮流に対して、次のような批判をしています。JBPress 2015/5/27 織田邦男氏の「日本の安全を真剣に考えない政治家たち」より引用します。

ゲーツ元国防長官 「国防に力を入れる気力も能力もない同盟国を支援するために、貴重な資源を割く意欲や忍耐は次第に減退していく」
トーケル・パターソン元国家安全保障会議議長 「集団的自衛権を行使できないとして、平和維持の危険な作業を自国領土外ではすべて多国に押しつけるという日本のあり方では、日米同盟はやがて壊滅の危機に瀕する」

この両氏の見解はアメリカ政府の考えを代弁したものだと思われますが、アメリカから見放されて、日本が単独で自国の防衛ができるのかといえば、それは不可能です。日本の国防上、日米同盟が不可欠であることは誰にも異存はないはずです。であるならば、日本としても日米同盟を維持するための努力をすべきでしょう。

いや何が何でも憲法9条を守り抜く。それでアメリカが日本を見捨てることになっても結構。海外で邦人が紛争に巻き込まれても米軍の救出はなくて結構。自衛隊も永遠に派遣しない。邦人は放置することにする。日本政府はどんな事態になろうとも、自衛隊を海外に派遣して、自衛隊を危険にさらすようなことは絶対にしない。海外に進出する個人も法人も、自らの身は自分で守ってくれ。中国から脅迫されても、外交努力で解決せよ。解決できなければ、中国に従えばいいではないか。というのが、護憲派が望む平和主義のいつわらざる実態です。こんな護憲派国家の許で、日本企業は安心して海外に進出できるでしょうか。

先日、天皇皇后両陛下が戦没者慰霊のために、パラオを訪問されました。両陛下のパラオ御訪問により、70年前の戦場が一気に現在へと手繰り寄せられましたが、同時に、現在のパラオの様子を知るきっかけをも作ってくださいました。一般マスコミでは報道されていませんが、現在のパラオには中国人が多数移住してきているという。移民によって世界制覇を狙う中国政府の方針もあってのことなのか、中国人移民は世界中に隈無く進出しているようです。のみならず、中国漁船も頻繁にパラオ近海に出没するらしい。数年前、中国漁船がパラオの領海を侵犯するという事件が発生したという。日本の領海での中国漁船の侵犯は頻々と発生しますが、日本では海保が警告を発するぐらいです。ところがパラオ政府は、領海侵犯した中国漁船を即座に銃撃したという。中国政府からの抗議もなければ、中国軍による報復攻撃もありませんでした。(これは最近、何かで読んだのですが、出典が思い出せません。分かり次第追記します。)

超小国ともいえるパラオですら、自国防衛のためには実力行使を躊躇しません。しかし

既刊本

熟成本

書名索引

日本はパラオとは比較にならないほどの質量とも大規模な自衛隊を擁していても、憲法9条を護持するがゆえに、自国防衛のための行動はしない、できない、という手枷足枷がはめられ、領海警備は海保が行なっています。その結果、中国漁船が小笠原諸島周辺の日本の領海内に入り、珊瑚を根こそぎ盗み放題状態が続いています。最近法律が改正されましたが、日本の法律では外国漁船が領海侵犯して不法に操業して逮捕されても、改正で担保金は引き上げられたものの、担保金を支払えば盗んだ獲物は彼らに返され、釈放されるという異常な、泥棒優遇法になっています。韓国や中国の領海侵犯による、違法操業が延々と続くのも当然です。日本の政治がいかに、中韓に奉仕する売国的姿勢に貫かれているかを象徴しています。中国漁船による傍若無人な珊瑚漁りの結果、日本では珊瑚が品不足になった上に、珊瑚の値段が高騰し、日本の珊瑚業者を窮地に追いやっています。過去には長崎周辺の海が中国の漁船団に荒らし尽され、廃業する漁師が多数出たという事例もあります。憲法9条に守られた平和国家日本とパラオとの余りの違いに目眩を覚えます。

新安保法が成立しても、自衛隊が領海巡視をするわけではなく、厳しい3要件もあり、国防に関しては実質的には現在とそう大きくな変化はなさそうですが、日米同盟を維持し、現憲法下でもぎりぎり可能な国防力の向上のための新安保法ではないかと思われます。この法案に関しては、自民党の佐藤正久国防部会長が非常に分かりやすく解説しています。BLOGOS 2015/5/28 佐藤正久国防部会長に聞く。安倍総理が中谷防衛大臣に代わって答弁をしようとして飛ばしたヤジが野党の批判を浴びていますが、ヤジの内容は非難されてもやむをえない内容のようです。佐藤氏が国会で答弁すれば、国民の理解ももっと深まるのではないかとも思われますが、元自衛官ゆえか佐藤氏にはその機会は訪れないらしい。

 

5 大阪都構想のペテン

5月17日に大阪都構想の賛否を問う住民投票が実施されました。大阪を混乱させるだけのこんな政策は、必ず否決されるだろうと思っていましたが、意外や意外、1万7千票余りという僅差での否決です。当初大阪都構想劣勢が言われていましたが、終盤になって菅官房長官が事実上、大阪都構想支持表明をしたともとれる発言をしたことが、劣勢挽回の起爆剤になったともいわれています。菅官房長官の支持ということは安倍政権による支持ということになり、橋下氏ら推進派は、「安倍政権も支持」を劣勢挽回にフル活用したらしい。投票日直前になって、日経新聞web版でも突如として、大阪都構想寄りの記事を掲載し始めましたので、一部マスコミの支援も加わったのかもしれません。

しかし投票直前のこうした動きとは別に、橋下氏は非常に汚い手を使って住民投票の準備をしていたという。大阪都構想に関しては、橋下氏のブレーン(大阪市や大阪府の顧問)になった2、3人の学者以外の、日本中のほとんど全ての学者が反対しているそうですが、そのお一人である村上弘立命館大学教授が、5月15日付け日経ビジネスweb版に「大阪都=大阪市廃止分割は、大阪を弱く不便にする」という批判論を発表されていますが、その中で、橋下氏の汚い手口も紹介されています。

橋下氏は、住民投票に先立って住民説明会を開催したそうですが、説明会では大阪市を廃止することは一言も口にしなかったという。のみならず、市民に配布された説明パンフレットにも大阪市を廃止することは一言も書かれていないという。極めつけは、投票用紙です。村上氏がwebに公開されていますが、かこみ枠などは省き、用紙に印刷された文字だけを転載させていただきます。

    平成27年5月17日執行

大阪市における
特別区の設置についての投票

一 特別区の設置について賛成の人は賛成と書き、
  反対の人は反対と書くこと。
二 他のことは書かないこと。

ご覧のとおり、大阪市を廃止することはどこにも書いてありません。「大阪都」という名称すら書かれていません。橋下氏の住民説明会や説明パンフレットでも、同様の隠蔽手法が使われたのでしょう。しかし大阪都構想の最大の特徴は、村上氏のタイトルにもあるように、「大阪市の廃止分割」にあります。分割して5つの特別区を設置することになっていたわけですが、大阪市の廃止を大前提にした特別区の設置です。大阪市の廃止がなければ、特別区の設置などありえないわけですが、橋下氏とその一派は、この構想実現のための最重要の要である「大阪市の廃止」を徹底して隠したばかりか、住民がその意思を記す投票用紙にまで、隠蔽工作を貫徹させていたわけです。

一方反対派は、大阪市を廃止せずに区の権限を拡大することのできる、総合区の設置を対案として議会に提出していたことも、村上氏は明らかにしています。この対案の存在を知れば、「大阪市における特別区の設置」としか書かれていない投票用紙のペテン度はさらに高まります。橋下氏とその一派が、住民の誤解を意図的に惹起することを狙っていたことは明らかです。自らの政治的野望の実現のためには手段を選ばず。橋下氏がここまで汚い人物であったとは、想像もしませんでした。おそらく菅官房長官もご存じなかったのでしょう。

 

 

これほど汚い手口を平然と使う政治家は、国政レベルでも地方レベルでも、橋下氏とその一派以外にはいないはずです。村上氏によれば、橋下氏のこの手法は、住民投票法にも完全に違反しているそうです。選挙でうちわを配ったといっては国会やマスコミは大騒ぎしますが、有権者全員をペテンにかけた、トップの権力者である首長以外には執行不可能な橋下氏のこの犯罪については、国会はもとより、マスコミも全く報道すらしていません。

住民を説得することができないがゆえのペテンですが、住民をペテンにかける以外に住民投票を実施することができなかったところに、大阪都構想のいかがわしさが象徴的に表れています。僅差にしろ否定されたのは不幸中の幸いですが、橋下氏は、ペテンが功を奏して大敗を免れ、僅差の敗北に気をよくしたのか、上機嫌で記者会見をしたらしい。この記者会見の場で、橋下氏の汚い手口が暴露されていたならば、橋下氏の上機嫌は一瞬にして消えたはずですが、知っていたのかどうか、記者からは橋下氏のペテンを衝く質問は出なかった模様。しかし、住民をペテンにかけたという事実が明らかになった今、橋下氏は即刻市長を辞任すべきです。このペテンに加担した松井大阪府知事も即刻辞任すべきです。こういうペテンがまかり通るならば、法治も民主主義もないも同然です。彼らは完全に政界から引退すべきです。

真偽のほどは不明ですが、マスコミ報道によれば、安倍総理は橋下氏の突破力に期待し、維新の党の協力も得て、憲法改正を実現したいと考えていたそうですが、法律も何も無視して、自分のやりたいことをゴリ押しする人物は政治家としてはもっとも危険であり、不適格です。一部のマスコミを除き、改憲につながりそうな事件は全く報道しないという、日本の異常な反日的偏向マスコミが世論を操作している日本では、正面からの改憲論議には非常な困難を伴いますが、正攻法で国民を説得するのが最も確実な方法ではないかと思います。

国防とは関係ありませんが、今国会で論議されている法案の一つである派遣法の改正法案についても一言。企業にとっては便利な制度ですが、労働者にとっては過酷なものになりそうです。派遣期限が3年に限定されるならば、仮に新しい職場が見つかっても、労働者は3年ごとに職場を変わらざるをえなくなり、派遣労働者の根無し草的な特性がさらに強化されます。今でも派遣労働者は短期で職場を変わらざるをえないケースが少なくありませんが、その傾向がさらに拡大されるのではないか。職場で安定的な場所を得られない派遣労働者は、生活の基盤が不安定であるだけではなく、職場での人間関係を築く機会が初めから奪われています。これほど寂しい、惨めな人生があるでしょうか。企業が安値競争で勝負するとなれば、人件費をとことんカッとせざるをえなくなりますが、安値競争以外の方法で、日本企業が世界で勝ち抜く道はないのでしょうか。

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