ファーウエイ副社長逮捕の衝撃

ファーウエイ副社長逮捕の衝撃

2018-12-15

「葦の葉ブログ2nd」より転載

ファーウエイ副社長孟晩舟氏の逮捕は、ゴーン氏逮捕以上に衝撃的なニュースでした。その衝撃度の大きさは以下のような事情によるものではないかと思います。

1 副社長はアメリカで逮捕されたのではなく、アメリカ政府の要請を受けて、カナダ当局によって逮捕されたということ。
2  逮捕容疑は、ファーウエイが、アメリカが定めたイラン制裁に違反したという、客観的かつ普遍的にその犯罪性が認定されうるものではなく、アメリカのトランプ政権固有の国家的要請により設定された犯罪要件に基づくものであったということ。
3  にもかかわらず、生身の人間である副社長が逮捕されたということ。しかも社長ではなく、副社長のいわば身代わり逮捕。一般的な企業の犯罪とされるケースでは、こういう逮捕は成り立ちうるのか。
4  瞬間的には、アメリカが事前予告なしに、中国に対して奇襲攻撃をかけたかのような衝撃を与えたこと。
5  その一方で、対中制裁後初の、トランプ大統領と習近平主席による首脳会談が開催されて、90日という制限付きのもとはいえ、米中対立回避が合意された同日に、この合意を破壊するかのようなタイミングで行われたこと。

以上のよう理由が、この逮捕劇に恐怖感を伴うような異様な印象を与えたのだと思います。わたしはこのニュースを知った瞬間、アメリカに逆らうと、どんな報復があるか分からないという恐怖感のようなものを感じました。中国をはじめとした独裁国家も、逆らう者はほぼ問答無用で消されますので同様の恐怖があるとはいえ、非独裁国家やその国民による批判までをも封殺することは不可能で、その及びうる範囲はきわめて限定的です。

ところが、今回のように、世界最大規模の経済力、軍事力をもったアメリカ政府による攻撃は、世界中からアメリカ政府に対する批判そのものを封殺するほどの威力がありました。おそらく、トランプ大統領下ゆえに露わになった、アメリカの本性だといえなくもありませんが、トランプ効果に便乗した、トランプ以上の思惑が働いたものではないかとの疑念も抱かずにはいられません。それほどの異様さですが、以下、もう少し具体的にその異常さについて、冒頭に挙げた項目を踏まえつつ、検証してみたいと思います。

ゴーン氏逮捕は日本の国内法に基づくものですが、その犯罪性がどこまで立証できるかは未確定ではあるものの、逮捕容疑となった罪状そのものについては、少なくとも資本主義社会では、犯罪だと認定されうるものだと思います。しかしイラン制裁は、アメリカの国益に沿わないという理由で定められた罰則であり、非常に政治性を帯びたものであることは否定しがたい。時の大統領の政治的立場によっては、この罰則の正否はいつでも変わりうるものであり、罰則そのものが撤廃される可能性も非常に高い。これほど全く普遍性のない、可変的な罰則は法律とはみなされず、単なるリンチに近いものだといわざるをえません。しかもそのリンチ法の実行者は、アメリカの代理者であるカナダ当局です。

これほど重大な「法」の執行が、これほど安易かつ杜撰になされたことには驚きを超えて、恐怖すら覚えます。トランプ政権はなぜこれほどまでにイラン制裁を強めるのか。イスラエルを守るためです。では世界にとっては、このトランプ大統領の反イラン、親イスラエル政策はいかなる益をもたらすのでしょうか。その答えはありません。ここがかつての冷戦時代との決定的な違いです。

冷戦時代は、共産党の一党独裁による社会主義か、資本主義経済を基盤とする自由民主主義かという二者択一の世界の中で、我々はアメリカを盟主とする資本主義を選択し、アメリカの指揮下に自ら入り、その指揮に従いました。その結果、資本主義の国々は例外なく豊かさを享受することができたわけですが、トランプ政権下では、アメリカの豊かさだけが追求されています。今我々は、トランプ流アメリカ第一主義政策に、一方的に貢献することを求められています。

ファーウエイの副社長逮捕も、こうした動きの一つだとも見なしうるわけですが、完全にそうだと断定するにはいささか躊躇も覚えます。というのも、トランプ大統領と習近平主席とが、90日間という期限付きであれ、対立激化回避を合意したその合意を、なぜ即破壊するかのようなタイミングと劇的な演出効果のもと、副社長を逮捕したのか、その疑問があるからです。

その後の報道によると、トランプ大統領は、せっかくの米中合意をぶち壊すようなこの副社長逮捕には納得しておらず、捜査に介入するともまで言ったという。ただ、大統領といえどもこの捜査には介入できないと側近からいさめられたこともあり、実際には介入はしていないという。三権分立の建前からすると当然ですが、この逮捕劇に対するトランプ大統領の反応からしても、この捜査はトランプ大統領の意向を受けたものではないことだけは明らかです。それどころか、トランプ大統領の意思に反することを承知の上で、米中合意をぶち壊す目的でなされたことは明白です。

では、トランプ大統領を窮地に陥れるための逮捕であったのか。それも目的の一つではあるものの、それ以上に、米中対立を激化させ、中国を窮地に陥れることにより重きを置いたシナリオの下、実行に移されたものと思われます。アメリカでは昨今、国全体で親中路線から反中路線へと急激に変わりつつあります。その先鞭を付けたのはトランプ大統領であったとはいえ、最近のアメリカ社会での急激な反中気運の高まりは、ファーウエイ副社長逮捕に象徴されるように、トランプ大統領の意図を超えたものだと思われます。そしてアメリカの一部メディアによっても煽られているこの反中気運は、中国のIT企業に集中的に向けられているところに最大の特徴があります。この反中気運は、人間の頭脳に模した能力を有するIT機器の特性に由来する側面はあるものの、果たしてそれだけなのかどうか。

確かに、昨今急激に顕在化してきた米中対立の背後には、貿易摩擦のみならず、技術覇権をめぐる競争の激化もあることは明白です。事実、中国の科学分野、特にデジタル分野における技術の伸張はめざましく、日本を超えて米国と直接覇を競うほどになっています。トランプ大統領は、その中国の技術力はアメリカの技術を盗んで手に入れたものだとの主張を繰り返しているようですが、盗みだけでアメリカと覇を競うに至るほどの実力を手に入れることなどできるはずはありません。

中国は大量の留学生をアメリカの大学に送りこみ、世界最先端の技術を学ばせました。しかし学びは盗みとはいえません。韓国も中国に次ぐ規模でアメリカの大学に留学生を送りこんでいますが、アメリカを脅かすどころか、どこの国にとっても脅威となるほどの人材は育っていません。

一時アメリカでは中国人留学生の奪い合いが発生しましたが、韓国留学生に対してはそうした動きは皆無。それどころか、本国の韓国ではサムスンすら自国の学生よりも海外に目を向けており、ついにはロシアの大学に直接乗り込むにまで至っています。ロシアにはプーチン大統領がいますので、ロシアの大学をハイジャックしようというサムスンの目論見がすんなりと実現するかどうかは不明ですが、こうしたエピソードからしても、中国が単にアメリカの技術を盗んでいるというのは、事実を見る目を曇らせるだけでしょう。つまり中国人の実力を見誤らせるということです。

ただ中国では、国家がハッカー集団を組織し、サイバー攻撃を仕掛けて、アメリカの情報や技術を盗んでいたことはおそらく事実であり、そのことに対する非難は、オバマ政権時代からありました。中国には、覇権のためには手段を選ばずという国家意思が強固に存在することは紛れもない事実であり、可視化された行動でも日常的に国内外に示されています。ではアメリカには、そうした国家意思は存在しないのかといえば、ノー。アメリカにも同様の国家意思が存在することは紛れもない事実です。そしてアメリカはその覇権を維持するために、非同盟国、同盟国の別なく、様々な工作を仕掛けてきたことも公然の秘密だといっても間違いではないはずです。

しかし今我々にとって、技術覇権をめぐる米中対立の激化により顕在化した最大の問題は、今や世界中で生活の隅々にまで行き渡っているデジタル機器の安全はいかにして確保されるのかという、現代が直面する究極の難問です。トランプ大統領は、自国のみならず同盟国に対しても、ファーウエイとZTEという中国企業製品の使用禁止を要請し、カナダや豪州などともに日本も忠実にその要請に従うことを表明しています。その効果は絶大で、この2社にとどまらず、中国製品全てに対する忌避感を世界中に惹起させずにはいないはず。中国ではかなり前から、政府機関でのアメリカ製デジタル機器の使用は禁止していますし、米国でも政府機関での中国製デジタル機器は使用禁止になっていたようですが、トランプ大統領は、その使用禁止範囲を一気に世界的規模にまで拡大しました。

この大統領の方針は、本当にアメリカの、そして同盟国のセキュリティ確保に有効なのかといえば、そんな単純なものではないことは、今や中学生でも知っています。CIAは、1,2ヶ月前ぐらいだったと思いますが、北朝鮮のハッカー集団がソニーエンタープライズの大量の顧客情報を盗み出したり、他国の銀行から巨額の資金を盗み出したしたとして、ハッカー集団のメンバーであった北朝鮮人の罪状を認定しました。

この事件では、被害者は北朝鮮製のコンピュータを使っていたわけではありません。また、つい先日CIAは、アメリカの公的機関の情報を盗んだとして、中国のハッカー集団のメンバーを逮捕しました。当然のことながら、攻撃を受けたコンピュータは中国製ではありません。対象をもっと広げれば、事例は山のように出てきます。世界中で騒動になったFacebookからの大量の情報流出では、盗みを受けたコンピュータはPCにせよスマホにせよ、製造元は多種多様。サイバー空間での攻撃は、デバイスの違いに無関係に起こりうることは自明すぎる事実です。

中国製品排除の動きは、こうした事情は百も承知の上でなされていることは明らかなので、正論だけでは事の真相には迫れません。実はファーウエイは、PCやスマホなどの端末だけではなく、通信事業においても世界のトップレベルにあるという。端末機器の製造と通信事業両者において、世界のトップレベルにあるのはファーウエイだけだという。しかも次世代ネットワーク5Gでは、ファーウエイは世界のトップレベルだという。

次のFNNの解説記事には、東大教授が世界トップレベルのファーウエイの5G排除は誰の得にもならないと語っています。ファーウェイはトップランナー!!“日本の民間排除”でどうなる日本の5G? この警告の深刻さは、5Gがいかなるものであるのかが分かれば、誰もが納得せざるをえないはず。次の記事は5Gについて、非常に簡潔かつ分かりやすく解説してくれていますので、是非ともお読みください。次世代移動通信「5G」って何? 2020年の暮らしはどう変わる?  「5G通信の超爆速社会ではスマホが不要にになる」は本当か

世界は今や物と物とがネットに繋がるの時代へと突入しつつあります。自動運転、ドローンを使った様々な分野での作業の無人化、農業へのIT導入、遠隔医療、無人店舗化等々、これらを実現するためには大容量通信が可能であるばかりではなく、超高速(爆速)通信が可能となる通信網が不可欠となりますが、5Gはこうした条件を満たしたものとして開発されたそうですが、この分野ではファーウエイがトップだというのは、専門家が一致して認めるところです。

非常に高度で高性能の通信網がなければ、IoTは実際には使い物にならないということです。特に自動運転や遠隔医療では一瞬の遅延も即命にかかわりますので、高性能な5Gがなければ実施に移すことは不可能だということです。アメリカでもIoT化が進む中、ファーウエイ排除を強力に進めているトランプ大統領は、こうした認識はおそらく持っていないはず。このアメリカの要請に忠実に従った安倍総理も、安倍政権の面々もおそらくその実態を知らないのではないか。特に日本では、2020年の東京五輪に向けて、自動運転車の配備をはじめ、急速にIoT化を進める方針を明らかにしていますが、そのためには不可欠な通信ハイウエイ5Gをどこから調達するつもりなのでしょう。

しかも貿易面で考えても、中国製品の削除は、アメリカのApple社製品の増加に繋がるかといえば、それはありえぬはず。激増するのは、凋落の一途にあった韓国製品だと思われます。Apple社製のデジタル機器は、世界に広く普及しているAndroid製に比べ、特有の構造ゆえ、拡大は限定的にならざるをえません。しかもApple製品は、今のところ大半を中国で製造して米国に輸入するという流れになっていますので、米中対立はAppleにとってもマイナスでしかありません。しかしトランプ大統領は、自国企業にとってもマイナスになるにもかかわらず対中制裁を強めています。5Gについても、アメリカで即ファーウエイの代わりになりうるような企業はないのではないか。

時代の趨勢と通信の安全を考えるならば、世界に率先してアメリカ自らがその研究開発に取り組むべきだったと思いますが、アメリカにはその重要性を認識しているリーダーはどこにもいなかったということです。アメリカをお手本にしている日本も同様です。中国を排除したままでは、最先端技術を搭載した世界最速の高速列車を製造したものの、その列車を走らせるレールがないという事態になりかねない状況です。

アメリカは経済、軍事、科学等、あらゆる領域で今なおトップにあるとはいえ、その実力はアメリカの地力なのかといえば、そうではないといわざるをえません。アメリカでは費用をかけずに世界のトップレベルの科学力を保持し、企業も費用をかけずに売上げを上げるという傾向が、新自由主義が席巻して以降は特に強まりました。

火星を歩くロボット、海底探査をするロボット、倉庫で商品を仕訳し、出荷準備をする倉庫の無人化ロボットなどは、全て国際コンペを実施し、最先端の技術を時間をかけずに入手するという手法が広く採用されています。コンペにはかなり高額の賞金が出されるとはいえ、ゼロから人材を育成して最先端技術の研究開発をするよりは、はるかに簡単かつ安価に必要な技術の入手はできますが、そうして得た技術はピンポイント的なものでしかなく、教育や研究開発が生み出すような、技術が裾野広く共有習得されるという環境はなく、仮にピンポイント的に最先端の技術を入手しても、それがアメリカの地力を形成することはありえません。

しかし中国では、これらの無人化ロボットは全て自力で作っています。倉庫の無人化ロボットは日本でもすでに大手メーカのみならずベンチャー企業も参入しています。多少時間がかっても、費用がかかっても、自ら開発することで技術が蓄積され、それが後の新規製品開発の土台となるわけですが、アメリカでは、結果だけを金を買っているわけです。これでは中国に負け、日本にも負けるのも当然ではないでしょうか。

石油メジャーが実施する海底探査ロボコンペは数年に渡って実施されており、日本からは東大が参加していますが、参加者は参加費用を払った上で、ロボットに関わる詳細な資料を主催者側に提供することになっていますので、主催者は参加者全員から参加料を得た上で、無料でロボットに関する膨大なデータを入手できるという、信じがたい仕組みになっています。他のコンペは実施日数は短期だと思うものの、データに関しては主催者丸儲けという点では同じでしょう。それを可能にさせるのもアメリカの魅力ゆえですが、こういう手法では、自ら新しい製品を生み出す力は衰えてくるのではないかと心配です。

儲け優先、効率優先できたツケが、アメリカの国力を弱めてきたことは否めないと思います。この現実を直視するならば、ただ中国製品を排除するだけでは、アメリカが抱えている病巣は温存されるだけだということは多言を要しないはずです。ただ中国にも多々問題のあることも事実です。中国は、自由主義経済圏で自由に経済活動を行い、飛躍的に経済力を拡大させました。しかし、自由主義経済圏の企業が、中国で同様の経済活動をすることは、中国では許されません。様々な規制がかけられているからです。この非対称性については、中国政府は当然のことと考えていましたし、世界も体制が違うので仕方がないと追認していました。

中国が世界第2位の経済大国になっても、誰も、どこの国も、その身勝手さを批判したことはありませんでした。誰もが、中国の怒りを買うことを恐れていたからです。しかしトランプ大統領は初めて、中国の一方的な言い分に真っ向から異議申し立てをしました。一切忖度しないトランプ大統領の突破力によって初めて、中国は、共産党の一党独裁という体制を維持しながら、世界の大国として経済活動を続けることの難しさを思い知らされたのではないかと思います。トランプ大統領が批判する中国の問題は、全て一党独裁という閉鎖的な政治体制に由来するものばかりだからです。

IT事業はどこの国のものであれ、セキュリティに対する不安はつきまといます。日本でもアメリカの巨大IT企業GAFAに対する監視組織が創設されることになりましたが、非常に閉鎖的な政治体制で、自国最優先を当然のこととしてきた中国対する不安は、GAFA以上のものがあるのは当然です。IT以前の、機械類が動力で動くような時代には生じることのなかった不安が、このITで世界のトップにのし上がった中国を窮地に追いやっているわけですが、中国がこの窮地から脱するためには、国をもっとオープンに開く以外にはないはずです。一党独裁とオープン、相容れがたい選択ですが、二者択一か、両者併存か、いずれかしかないはずです。

ただ、ドイツだけは、アメリカの要請には同調せずに、5G構築に向けて、どのメーカーもいかなるハイテク企業も排除しないことを表明しました。つまりファーウエイなどの中国製品も使うということですが、これは、ドイツと中国との経済的な結びつきの強さも背景にあるかもしれませんが、世界で真っ先に第4次産業革命を提唱し、実践してきたドイツは、第4次産業革命の推進には、中国の技術の活用は不可欠だと考えたからだと思われます。おそらくドイツの政治指導者は、世界でも例外的に、IoTと5Gとが不可分のものであることを熟知しているものと思われます。

一方、日本では、トランプ大統領の要請に忠実すぎる安倍政権は、民間にまで中国製品の使用禁止を要請しました。こうした要請をするということは、日本ではIoT化の遅れはやむなしと判断したことになりますが、安倍総理にはその認識はあるのでしょうか。おそらくないはずです。ただこの問題はそう単純ではなく、機会を改めて続編を書いてみたいと思います。

Translate »