バーグルエン賞受賞の柄谷行人氏と拙著「貨幣の謎とパラドックス」

バーグルエン賞受賞の柄谷行人氏と拙著「貨幣の謎とパラドックス」

2023-02-01

色々論ずべき問題が多々ありますが、今回も私事テーマを発端にブログを始めることにいたします。といいいますのも、前号WEBの罠、検索の罠を公開後間もなく、柄谷行人氏がバークルエン哲学・文化賞を受賞されたとのニュースを目にしたからです。『貨幣の謎とパラドックスー柄谷行人論』の著者であるという個人的な事情もさることながら、柄谷氏が「哲学のノーベル賞」と呼ばれる同賞を受賞されたということと、日本の文化的、教育的状況との余りの乖離に改めて愕然とさせられたからです。加えて、きわめて個人的な心配事もあり、今回のテーマといたしました。(アイキャッチ画像はBerggruen Institute(バーグルエン研究から拝借)

1.献本の行方?

柄谷氏のバークルエン哲学・文化賞受賞が発表されたのは、昨年の12月8日だったそうですが、わたしがこのニュースを知ったのは1月20日すぎ、発表より一月以上も後のことでした。しかも、IT関連記事を発信しているJ-castの記事です。何かの検索をしていたところ、偶々、以下の見出しが目に入り、受賞の大ニュースを知った次第です。

柄谷行人さんに「哲学のノーベル賞」 日本の「文系」が国際的に評価された
2022年12月10日 J-cast

IT関連のサイトで報道されていたことにも驚きましたが、初めて目にしたばかりだったので、他でも次々報道されるのだろうと思っていました。というのも、わたしが日々のニュース源にしている西日本新聞では報道されておらず、NHKでも報道されていなかったからです。

西日本新聞はローカル紙とはいえ、域内には閉じられてはおらず、近年は特に域外や海外にまで射程を伸ばした紙面づくりに力を入れています。ましてや日本人が世界的に権威のある賞を受賞したというニュースを報道しないはずはありません。

しかし何時まで経っても報道されません。念のためネットで確認したところ、大手新聞社は全紙、発表の翌日、昨年12月9日に報道していることが分かりました。西日本新聞は最初の検索では出てきませんでしたが、おそらく報道していたのだと思います。

時々、新聞を読まず溜めてしまって、後でまとめてざっと目を通すということがありますので、見落としたのかもしれません。加えて、おこがましい言い方になりますが、西日本新聞がもしもこのニュースを報道したのであれば、日本初、世界初の柄谷論を出版した著者が福岡市内に居住しているのに、連絡してこないということがあるのだろうかと、気になり出しました。

20年余り前までは、わたしは西日本新聞の常連寄稿者でした。文化部の記者は全員存じ上げていましたし、会食したりする親しい記者もおられました。しかしわたしが純真女子短大を辞め(1999年3月)、上京して以降、関係は途絶えたまま、今日に至っています。

しかし葦書房の代表に就任してからは、新刊書は書評していただきたいので献本だけはしていました。2017年12月1日付けで、個人出版した拙著『貨幣の謎とパラドックスー柄谷行人論』も、西日本新聞には、いの一番に献本しています。

しかし以来5年以上経ちますが、一文字たりとも紹介されぬままです。出版社から出せば、自費であれ、企画本であれ関係なく書評の対象になりますが、Amazonからのオンデマンド出版というのは、余りにもイレギュラーすぎるので、書評の対象にはならないのかと諦めていました。まず一般書店では販売されないという重大な欠陥があるからです。

加えて、韓国関連報道では西日本新聞も遠慮なく批判してきましたので、敬遠される背景もありました。

とはいえ、顔見知りの記者さんたちがいる頃ならば、せめて感想ぐらいは聞かせてもらえたかもしれませんが、親しい記者さんたちもいない中では、拙著が担当者の手に届いたのかどうかさえ確認できずにいます。

また、西日本新聞も含めて以下の全国紙にもAmazonからの直送で献本しています。
朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞、各紙の東京本社の学芸部・文化部宛に献本しています。

次の専門誌紙にもAmazonからの直送で献本しております。
週刊読書人、図書新聞、青土社

もうお一方、わたしに新著を書くきっかけを与えてくださった方(出版関係者)にも献本しています。

それから3年余り経った2021年6月には作品社にも献本しています。

というのは、この年の2月に出版された柄谷氏の新著『ニュー・アソシエスト宣言』の、型破りで非常に面白い書評が西日本新聞に掲載されたのを見て、驚きつつ購入。評者は初めて目にした方でしたが、確か、松本哉という方だったと思います、

柄谷氏の新著を購入したのを機に、拙著を作品社にも献本しました。合わせて、柄谷氏にも拙著を献本したく思い、作品社には、柄谷氏にも献本していただきたい旨添えて、拙著を2冊献本させていただきました。しかし受領の連絡をいただいていませんので、拙著が届いたのかどうか、柄谷氏に渡していただいたのかどうかも不明です。

新聞社に献本しても余りにも数が多いので、受領の返事が来ないのは普通かもしれませんが、出版社の場合は、受領のハガキぐらいは来るのが普通だと思われます。しかし、そういえば、どこからも受領のお知らせはいただいておりません。メールでやりとりしていたお相手でも同様です。

しかし、地元の西日本新聞までもが、「哲学のノーベル賞」まで受賞されたという大事件を受けても、唯一の柄谷論者である著者にコメントすら取らないというほどに無視されていることには、納得できないものを感じます。

お前の著作物はそんな価値はないと言われればそれまでですが、旧著の『柄谷論』は飛ぶように売れた上に、世界的に有名なアメリカの大学3校からも注文をいただいています。

ただこの旧著の前半は、葦書房が絡む騒動を背景に、様々な人や企業やマスコミ批判満載で、今となっては全て消し去りたいというのが正直なところ。アメリカの大学に今もこの旧著が残っているのであれば、回収して新著を献本したいぐらいです。

しかし新著は旧著よりも質量ともにはるかに充実しています。自分で褒めていては説得力はないかもしれませんが、Amazonで試し読みをしていただきたいと思います。また、出版時(2017年12月1日)に、自分で拙著の紹介をしております以下の記事を是非ともご覧ください。

『貨幣の謎とパラドックス―柄谷行人論・原理論編』を出版

ということで、柄谷氏の受賞でふと芽生えた、拙著『貨幣の謎とパラドックスー柄谷行人論』の献本の行方に関する、きわめて個人的な心配事について披露させていただきました。

なお、バーグルエン哲学・文化賞の詳細については以下の記事をご覧ください。
アジア初 日本の哲学者 柄谷行人氏、2022年バーグルエン哲学・文化賞を受賞
PRTIMMES

100万ドル(1億3000万余円)という超巨額な賞金は、アメリカはもとより世界中では哲学・思想がいかに重視されているかを端的に表していると思います。一方、日本では、政府が先導して哲学・思想などの文系研究が国公立大学から追放されてきました。

バーグルエン哲学・文化賞を創設したBerggruen Institute(バーグルエン研究書)のサイトを見ると、アメリカの人文系学問の基盤の厚さにもあらためて驚かされます。一方、日本では、政府主導で文系・人文系学問は無用のものにされつつあります。

2.『ニュー・アソシエスト宣言』を読む

ところで、2年近く前に『ニュー・アソシエスト宣言』を購入したものの、本書を読んだのは、このブログを書く直前でした。ぱらぱらと見たところ、すでに何種か読んでいるNAM関連書と類似本のように思われたことと、目前の雑事に追われて読まぬままになっていました。

しかし受賞の報を受けて読み始めたところ、非常に面白く、あっという間に読み終えました。対談という形で語られていたこともありますが、話が非常に具体的で、以前読んだ関連書だけではもう一つ理解しづらかった問題も、非常にクリアに理解できたからです。そういうことだったのかと思うこと、しばしば。

特にNAMに関しては2年ほどであえなく潰れたこともあり、柄谷氏の道楽だったのかとの疑念が拭えませんでしたが、決してそうではなく、思想的探求と密接不可分の営みとして、今現在の柄谷氏に継承されていることも確認できました。

NAM「New Associationist Movement(ニュー アソシエーショニスト ムーブメント、略称:NAM〈ナム〉)が、日本発の資本と国家への対抗運動」であるのに対し、「ニュー・アソシエスト宣言New Association Manifesto」は、直接的な運動指針の枠を超えて、世界が直面している混沌や停滞の歴史的背景を解き明かしつつ、それらの混沌を切り開く鍵を提示する内容になっています。

その鍵とは、柄谷氏の著書やNAMに関心のある方にはすでにお馴染みのものですが、一言でいえば、「交換様式」にあります。

具体的には、「A=贈与と返礼の互酬、B=支配と保護による収奪と再分配、C=貨幣と商品による商品交換。Dは、Aを高次元で回復したもの」で、このDの実現が、世界の混迷を切り開く鍵だと、柄谷氏は繰り返し論究されてきました。

柄谷氏の交換様式を軸にした探求は、日本よりも海外での評価が高く、ついにバーグルエン賞を受賞されたのですが、バーグルエン賞審査委員長のアントニオ・ダマシオ氏の以下の選評は、柄谷氏の探求の価値を余すところなく語っています。

バーグルエン賞審査委員長のアントニオ・ダマシオ氏は次のように述べています。「柄谷行人氏は、現代における最も注目すべき哲学者の一人です。彼は互酬性と公平性という概念が全体をまとめる鍵となる見事な思想体系において、民主主義、ナショナリズム、資本主義の本質を深く掘り下げる、哲学の新しい諸概念を生み出しました。柄谷氏の先駆的な業績と、彼が社会、政治、文化、経済の大規模な変化によって急速に変わりゆく世界のなかで、私たちが方向性と知恵を見出し、自己理解を深めることに貢献してくれたことを称え、それを広く知らしめることを喜ばしく思います 

アジア初 日本の哲学者 柄谷行人氏、2022年バーグルエン哲学・文化賞を受賞 PRTIMMES)

と世界的哲学者柄谷行人氏の業績をご紹介したところで拙著をご紹介するのは、余りにもおこがましいですが、一言拙著についても紹介させていただきます。

拙著が、現在の柄谷氏の業績に何らかの接続をなしうるとしたならば、柄谷氏の活動の核心となっている「交換様式」の淵源を、その思考に沿って明らかにしたことではないかと思います。中でも、マルクスが「資本論」において資本の源泉として明らかにしたと柄谷氏が繰り返し言及している「価値形態」の姿は、直接的に「交換様式」探求につながるものだと思います。

と自賛書評を書くしかないのはとても残念ですが、なぜ拙著が完全に無視されているのか非常に不可解です。と書くとますます無視されるかもしれませんが、Amazonの電子書籍とオンデマンドでしか購入できないという特殊な出版形態が災いしているのかもしれません。

どこも出版してくれそうもないので、やむなく制限の多い出版になってしまったのですが、どこかで出版していただけないかとも願っています。

ちなみにAmazonでは、電子書籍(Kindle本)と、プライム会員ならば無料で読めるKEMPが売上の大半を占めています。Amazonから時々入金される金額で少しは売れているらしいことは確認していましたが、全体の売上状況については、このブログを書くために、先日初めて確認したばかりです。

電子書籍は、販売開始から現在までの一括売上確認はできないらしく、各ファイルごとの売上を自分で合計せざるをえず、しかもKindle本と、読んだページ分が都度計上されるKEMPが混在していますので、すぐさま整理して合計するのは困難な状況です。

幸いKEMPについては販売開始から現在までの一括表示が可能です。その記録によれば、2023年1月31日時点で36232ページですが、この数字はKindle本(電子書籍)でのページ数です。

紙製本では、Amazonの販売サイトでは、紙製本(ペーパーバック)では261ページKindle本は196ページと表示されています。紙製本の方がページ数が多いのは、扉の裏などには印刷されない空白ページが含まれているからです。

KEMPはKindle本ですので完読すれば196ページとなりますので、KEMPでは184,85冊、約185冊読んでいただいたことになります。

一方、Kindle本そのものも冊数ではなく、金額のみ計上されており、その金額もAmazon専売の規定額とはかなり離れた数字でどういう計測になっているのかは分かりません。

このブログを書き始める前に久々に販売サイトを覗いたところ、全期間の販売推移を示すグラフを見ることができました。グラフなので概数になりますが、ざっと見たところ500冊ぐらいの感じでした。

無料公開分を含む数字なのかどうか確認しようと思ったのですが、先ほど再度確認したところ、全期間表示のグラフは消えて、1年前までの記録しか表示できませんでした。おそらく500冊の中には無料本も含まれているのだろうと思われます。

ここ1年間の記録では、Kindle本は0ですが、KEMPは今も読んでいただいているようです。

一方、オンデマンドは、販売窓口はAmazonですが、注文の都度製本しているのはNext Publishingという別会社です。献本のために自分で購入した20冊(マスコミ以外にも国会図書館などにも献本)を除けば、ペーパーバックで売れたのは40冊ぐらいです。

考えてみると、拙著出版のお知らせを大々的に宣伝して間もなく、サイトの変更を繰り返しています。拙著の広告は変更サイトにも貼りつけていたとはいえ、サイトの異変に対応することを最優先して、サイトを次々と変えており、そのうち広告も貼らなくなっています。

自分のサイトだけが唯一の広報場所であったにもかかわらず、その唯一の宣伝もなおざりになっていました。拙著の販売どころではない状況だったのだと思いますが、自著の宣伝ばかりすることには気が引けたのだと思います。

現在は、サイトの最下段に広告は貼り付けていますが、目に付くページ内には貼りつけていません。自著の宣伝ばかりでは気がひけるという気持ちがずっとあったからですが、そんな中で数百冊売れたというのは、中出来ではないかと思います。

拙著出版後に、柄谷氏が新著を出されたのを知ってからは、もう拙著は古すぎるのではないかという思いもあり、拙著の広告をさらに目立たなくしていましたが、『「ニュー・アソシエスト宣言』を読み終えた今は、決して古くはないとの確信をもっています。

最新刊の『力と交換様式』は未読ですが、おそらくこの最新刊を読んでもこの確信は変わらないと思います。

ただ現実問題として、改憲や原発問題などでは、わたしは柄谷氏とは全く逆の立場に立っています。柄谷氏にとっては、理論的探究と政治的な行動とは密接かつ必然的に繋がったものであることは、『「ニュー・アソシエスト宣言』を読むと明確に伝わってきます。

しかしわたしとしては、理論的探究には共鳴できるものの、その政治的な行動、特に護憲と反原発運動には両手を挙げて賛同する気にはなれないというねじれは、簡単には解消できそうもありません。

理論面での共鳴と政治的な行動への違和感というねじれをどう繋ぐことができるのか、これはわたしにとっては新たな課題となりそうです。柄谷氏にとっては、わたしのような存在は運動の邪魔でしかないかもしれませんが、異物は時には活性剤の役目も果たすはずです。

当初は、柄谷氏の受賞があぶり出す日本の文化・教育を含む社会状況についても論じる予定でしたが、余りにも長くなりすぎますし、論点が拡散してしまいますので、今回は柄谷氏受賞と拙著との関係に焦点を当てて終えることにいたします、

結果として、拙著宣伝になってしまいました。ご容赦ください。

さらに宣伝させていただきますが、Amazonでの以下のレビューもご参照ください。
Amazon.co.jp:カスタマーレビュー: 貨幣の謎とパラドックス: 柄谷行人論・原理論編 (単行本)

なお、サイドバーに柄谷氏のご著書と並べて拙著の広告を掲載しました。厚かましくも、便乗売上が奏功しますように念じております。

なお、ISBNは葦書房の記号を使用しています。
紙製本(ペーパーバック) 978-4-7512-0870-0
電子書籍(Kindle本)

 

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