侵略から1年

侵略から1年

2023-02-25

ロシアによるウクライナ侵略から1年が経ちましたが、収束の気配すら見えません。この戦争は、ウクライナに、ゆえなき甚大な被害をもたらしているだけではなく、穀物価格やエネルギー価格の高騰に始まる物価高騰や物資不足に、世界中の人々が苦しめられています。

1.小出し、小出しの武器供与

柄谷行人氏のバーグルエン賞受賞と拙著「貨幣の謎とパラドックス」でご報告しました拙著の献本は、そのほとんどが宛先には届いていないらしいことが分かりましたので、この件についてもご報告したいことが多々あるのですが、私的テーマよりもまずは、急を要する眼前の問題を取り上げることにたします。

ロシアによるウクライナ侵攻からはや1年。しかし、ロシアは攻撃の手を緩めようとはしていません。プーチンは、ウクライナの領土を奪い取るまで攻撃を続けるつもりらしいですが、これほど露骨に他国を侵略し続けるロシアを、決定的に追い詰めることが出来ずにいるのはなぜなのか、とも思います。

欧米諸国は武器供与を続けているものの、第3次世界大戦に繋がるような支援だけは断固拒否しています。ウクライナもその方針を厳守して、自国内でのロシアの猛攻に抗する姿勢を貫徹しています。

西側諸国によるロシアへの直接的な反撃としては、経済制裁を課していますが、効果は限定的。ロシア国内に生活困窮者があふれ、餓死者が出るほどの状況にでもならないかぎり、経済制裁だけで、プーチンの戦争を止めることは不可能です。

つまり、言論統制をもってしても防ぐことが出来ないほどに、ロシア国民が戦争の惨禍を実感せざるをえない状況にならないかぎり、プーチンは侵略戦争を続けるはずです。

戦争の惨禍の最たるものは、自国が戦場になることです。しかし目下のロシアは、戦場に派遣された兵士の死傷以外には、戦争の惨禍からは完全に免れています。

もしもウクライナがロシア領土を攻撃したならば、ロシア国民の大半は祖国防衛に立ち上がり、今でも核使用をちらつかせて威嚇を続けているプーチンが、その威嚇をさらに強めることは必至ですし、第3次世界大戦へと拡大する可能性も大。

しかし、もしもウクライナが敗北してロシアが勝利したならば、侵略した者勝ちとなり、他国の領土を武力で奪うというプーチンの侵略手法が実効性をもつことになります。

また、仮に停戦合意が成立した場合は、双方痛み分けとなるはずで、2014年にロシアが奪ったクリミア半島はもとより、目下、戦車を使って支配している東部地域もロシアのものになる可能性もゼロではありません。

つまり、ロシアが勝利した場合はもとより、停戦合意でも、侵略者ロシアにとっては、侵略した者勝ちの結果になる可能性大になるはず。となると、プーチン流の独裁が、自由主義陣営に勝利したという結果になりますが、この結果は、中国をはじめ、独裁国家をますます力づけることになるであろうことは言うまでもありません。

ちなみにクリミア半島は、ロシアにとっては非常に希少な年中凍らない不凍港であり、東部地域は、ウクライナの中でも有数の穀倉地帯であり、天然資源までもが産出する地域だという。プーチンが掲げた侵略の理由、当地に住むロシア人(スターリン時代に強制移住させられたロシア人の末裔)を守るというのは口実にすぎず、ご当地のもつお宝奪取が目的であるのは明らか。

ロシア人を保護したいのであれば、ウクライナの子どもたちをロシアに強制連行するのではなく、ロシア人を自国に呼び戻すべく、憂いなく暮らせる環境を整えて、彼らに帰国を促すべきだったのではではありませんか。

もし仮にこの戦争にロシアが勝利したならば、他国のお宝奪取を狙った、武力侵略へのハードルは一気に低くなるばかりか、ハードルそのものがなくなる可能性も出てきます。この可能性を潰すためにも、ウクライナの勝利を願って支援する必要があるわけですが、武力による自国侵略の可能性はほぼゼロに近いアメリカには、このあたりへの認識はかなり薄いのではないかとも思われます。

ところで、ロシアのウクライナ侵略開始から1年になる24日、中国政府はウクライナ戦争の停戦を呼びかけ、停戦合意のための仲介役を果たす意思のあることを表明しました。EUとアメリカ政府は、中国は仲介役を果たす資格はないと切り捨てましたが、ウクライナのゼレンスキー大統領は、同意できる部分はあると、中国の提案にも一定の期待を寄せています。

中国の停戦呼びかけにウクライナ・ゼレンスキー氏「同意できる部分も」 バイデン大統領は中国批判|TBS NEWS DIG(YouTube動画)

欧米からの武器支援があったとはいえ、ウクライナが、軍事超大国ロシアの侵略に今日まで頑強に抵抗を続けることが可能であったのは、ロシアの支配は断固拒否するという国民の強い思いを背景に、ゼレンスキー大統領の不屈の闘志とその強固な指導力があったればこそだと思います。

しかもゼレンスキー大統領の不屈の闘志は国内だけではなく、全世界に向けても遺憾なく発揮されました。おそらくゼレンスキー大統領にとっては、ロシアとの戦いは、ウクライナの独立を守るだけではなく、自由主義陣営の砦を守る戦いでもあるのだという、強い信念に基づいたものだと思います。

しかしそのゼレンスキー大統領が、部分的ではあれ、中国の提案にも耳を傾けようとしていることには、注意を払う必要があるはずです。

確かに欧米はウクライナに武器を供与してきました。しかし1年経っても、終息はおろか、収束の気配すら全く見えません。盟主国アメリカでは、ウクライナへの軍事支援に対する共和党からの批判の声が出ていますし、アメリカ国民からも批判の声が急速に高まってきていることが、最新の世論調査の結果からも明らかになっています。

ゼレンスキー大統領は当然のことながら、米国内の政界や世論の変化もキャッチしており、米国からの支援の削減も想定せざるをえない状況であることを認識しているはずです。

中国はロシアを支援してきたわけですから信用できないのは当然だとはいえ、では欧米が、多大な犠牲を払いながらロシアと戦ってきたウクライナに対して、早期に平和を回復するための方策を講じたのかといえば、ほぼ皆無に近い。

もっと強力な武力を使って、早期にロシアをウクライナから追い出していたならば、もうとっくに戦争は終結していたはずですが、欧米の武器支援は小出し、小出しで、戦争を長引かせる結果にしかなっていません。

ウクライナにとっては負けるよりはましだとはいえ、支援国に支援疲れが蔓延するほどに長引かされた結果は、空虚な「自由」は、人の生存にはほとんど役には立たないという現実をも浮上させずにはいないはずです。

ウクライナに軍事支援するのであれば、支援する側にも返り血を浴びるぐらいの覚悟が必要ではありませんか。

その覚悟がないがゆえに、小出し、小出しの支援で戦争が長引いているわけですが、ドイツがやっと高性能な戦車の供与を許可したとのこともあり、春先からの戦況には大きな変化が見られるかもしれません。が、これまでのアメリカの対応は、早期の戦争終結は望んでいないのではないかと考えざるをえないものでした。

アメリカのウォールストリートジャーナルは、最近の記事で、バイデン大統領のウクライナ支援は遅すぎると批判しているという。

この戦争では血を流し続けているのはウクライナの国民だけ。アメリカには一刻も早く、ウクライナの勝利でこの戦争を終結させる責務があるはずです。

2.戦争渦中での汚職の蔓延

<<<●●以下のウクライナにおける汚職批判が、ウクライナの勝利の障害にならぬことを願っています。汚職批判はウクライナが勝利した後の課題にして、まずはウクライナの勝利を願っています。3/1>>>

ところで、ウクライナでは、この戦争のさ中にあっても、かなり大がかりな汚職が日常化していることが、最近大々的に報じられています。

ウクライナのもう一つの戦争、汚職……ゼレンスキー氏の対応は
2023年1月29日 BBC

政府高官がゴロゴロ、汚職まみれになっているとのことで、高官個人の汚職ではなく、ウクライナ政府の汚職だとみなされているほどだという。EUからは、武器供与の条件として汚職対策の実施を要求されたそうなので、その汚職度は底なしレベルなのかもしれません。

自国がロシアの攻撃で廃墟になり、多数の自国民が死亡し、生存すら危うい日々を送っているそのさ中に、ウクライナ政府の高官の多くは、世界中から寄せられた援助資金や援助物資のみならず、武器までをも、私的に流用して懐を肥やしているという。

政府内に、これほど浅ましい高官が仮に一人いたとしても信じがたいですが、一人どころか、ウクライナ政府内には多数存在していたという。彼らは、血の通った人間なのかとの激しい怒りすら覚えます。

ウクライナに渡り、義勇兵としてロシアと戦っていた、福岡県南部出身の28歳の青年が昨年11月9日に戦死しました。開戦から1年となった24日に、その父親の悲しみに満ちた記事が西日本新聞に出ていました。戦闘が長引くに連れ、息子さんから届くメールは現地の過酷な様子が伝わるようになり、最後となった写真には、頬がげっそりとこけた息子さんの顔が写っていたという。

福岡からウクライナへ…帰らぬ息子は「義勇兵」 「なぜ」遺品に問う父
2023/2/24 西日本新聞

ウクライナには、兵器や物資以外にも、命を賭けた支援もなされていたわけです。にもかかわらず、政府高官たちは、その陰で汚職三昧に明け暮れていたとは!

ウクライナが汚職大国であることは、戦争前からも散々報道されてきましたが、国の存亡がかかっている戦争のさ中にあっても、汚職に励むとは、同じ人間とは思えず、呆れ果てて言葉もありません。

ゼレンスキー大統領は、汚職に関与した政府高官を大量に処分したそうですが、1度や2度の処分だけで、汚職が撲滅されるとは思えません。

これほど根深く、広範にわたって蔓延している汚職の日常化は、ウクライナへの軍事支援の大きな障害になるはずです。ましてや、復興支援ともなると、汚職の餌食になる危険性はさらに高まるはずですし、何よりもウクライナの勝利を遠ざけ、復興の障害そのものになるはずです。

昨日、岸田総理もウクライナへの新たな支援策を発表しました。非常にきめ細やかな支援が盛り込まれており、ウクライナの一般市民の方々に直届けられるならば、戦火の中での生活を支える力になるはずですが、汚職の餌食にされぬような対策も講じる必要があるのではないか。

ここまで心配せざるをえない状況については、ゼレンスキー大統領をはじめ、ウクライナ政府の皆さんは心底恥じるべきだと思います。

先日、バイデン大統領が開戦後初めてウクライナを訪問しました。隠密に準備を進め、直前にロシアにも通告したとのことで、攻撃を受けることもなく、初の訪問を無事に終えることができました。

結果、G7の首脳の中で、ウクライナを訪問していないのは日本の岸田総理だけになり、ゼレンスキー大統領をはじめ、岸田総理のウクライナ訪問を促す声が挙がっています。ウクライナは日本に対しては強力な復興支援も期待しているようですので、岸田総理の訪問も強く求めているものと思われます。

G7の結束を強固なものにするためにも、岸田総理もウクライナを訪問すべきだと言いたいところですが、当のウクライナ政府が、戦争まで利用した、前代未聞の汚職にまみれていることが明らかになった今は、総理が訪問する意義があるとは思えません。

ウクライナには是が非でもロシアに勝ってほしいと思いますし、そのための支援も可能な限り続けるべきだとは思いますが、勝利の後の国の再建は、人間とは思えないほどの汚職にまみれたウクライナ政府の浄化なしには不可能だと思います。

ゼレンスキー大統領は、国の土台を腐らすほどにはびこっている汚職を撲滅する不退転の決意を国内外に示す必要があります。復興支援金が闇に消えることはないという確実な保証なしには、復興支援はできないということを、日本を含め、世界各国は明確に表明すべきです。

ロシアと果敢に戦ってきたウクライナの、真の民主主義を目指した国内浄化への戦いに対しても、世界は真剣に支援すべきだと思います。

日本も他人事ではありません。汚職の蔓延は国力衰退の元凶です。

ブログを書きながら、最後に汚職の実態が詳報されている海外の報道記事を読んだのですが、かなりの衝撃を受けています。ウクライナでは、戦争渦中にも汚職が蔓延していることは概略知っていましたが、リンク先以外でも報道されている、汚職に関する詳報記事を先に読んでいたならば、記事の方向はもう少し違っていたかとも思います。

ただ、日本の新聞社はなぜか、戦時下におけるウクライナの大規模汚職については余り詳細には報道していません。わたしが衝撃を受けたのは、海外メディアによる想像を絶する汚職の実態を暴いた詳細な報道によるものです。

とはいえ、侵略者ロシアの勝利は絶対に阻止すべきだとの思いは不変です。そしてウクライナにとってのかすかな光明は、ウクライナのジャーナリストがこの汚職の実態を暴露したことです。

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